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円安になると輸入価格はなぜ上がる?「円ベース」と「契約通貨ベース」の違い



「原油や小麦の海外価格はあまり変わっていないのに、日本の輸入価格は上がった」
経済ニュースで、このような説明を聞くことがあります。
海外で商品の価格が上がっていないのに、なぜ日本の輸入価格は上昇するのでしょうか。
答えは、外貨で決められた価格を円に換算すると、円安によって円換算額が増えるからです。

たとえば、海外企業が100ドルの商品を同じ価格で販売していても、為替レートが1ドル140円から160円になれば、日本円に換算した価格は1万4,000円から1万6,000円へ上昇します。
海外で値上げされたわけではありません。それでも、日本側から見た輸入価格は上がるのです。
この違いを確認するため、日本銀行の輸入物価指数には、「円ベース」と「契約通貨ベース」という2種類の数字があります。
2026年6月の輸入物価指数は、前月比で契約通貨ベースが0.1%の上昇だったのに対し、円ベースは1.3%上昇しました。
同じ輸入品を対象にしていても、為替の影響が入るかどうかによって、数字に差が生じます。
この記事では、輸入物価指数の仕組みと2つの指数の違い、円安の影響が企業や家計へ届くまでの流れを、具体例を交えて解説します。

1.輸入物価指数とは

輸入物価指数とは、海外から日本へ輸入される商品の価格が、どう変化したかを示す統計です。
日本銀行は、原則として商品が日本へ到着し、船などから荷降ろしされる段階の「CIF価格」を調査しています。
CIF価格とは、商品の代金に加え、日本まで運ぶための運賃や保険料を含んだ価格です。
難しく聞こえるかもしれませんが、輸入物価指数は、海外の商品が日本へ入ってくる入口の価格を表していると考えるとわかりやすいでしょう。
対象には、次のような商品があります。
- 原油、石炭、液化天然ガス
- 鉄鉱石、銅、アルミニウムなどの金属
- 小麦、飼料作物などの農産物
- 食料品や繊維製品
- 電子機器や機械
- 自動車や部品
輸入物価指数が上昇すると、国内企業の原材料費や仕入れ費用にも、上昇圧力がかかります。
もっとも、輸入物価指数は、スーパーや家電量販店で消費者が支払う販売価格を直接示したものではありません。
商品を輸入した後には、関税、消費税、国内輸送費、倉庫費用、卸売業者や小売業者の利益などが加わります。
輸入物価指数には、関税や消費税、輸入業者の国内販売マージンなどは原則として含まれていません。
つまり、輸入物価指数は、海外から日本へどの程度の値上がり圧力が入ってきているかを見るための数字です。

2.「円ベース」と「契約通貨ベース」の違い

輸入物価指数には、次の2種類があります。
契約通貨ベース
取引を契約した通貨のまま見た価格変動
円ベース
外貨建ての価格を円に換算した後の価格変動
海外企業との取引が米ドル建てなら、契約通貨ベースではドルで見た商品の価格変動を調べます。
一方、円ベースでは、そのドル価格を月中平均の為替レートで円に換算します。
そのため、契約通貨ベースでは為替換算前の取引価格の動きを確認できます。円ベースには、その価格変化に加えて為替変動の影響も表れます。
100ドルの商品で考えるとわかりやすい
海外から1個100ドルの商品を輸入する場合を考えてみましょう。

海外企業は、商品の価格を100ドルに据え置いています。
そのため、契約通貨ベースでは価格は変わりません。
しかし、日本円に換算した価格は1万4,000円から1万6,000円へ増えています。
上昇率は約14.3%です。
このように、海外価格が横ばいでも、円安になれば円ベースの輸入物価は上昇します。
反対に、海外価格が上がっていても、それ以上に円高が進めば、円換算した輸入価格の上昇が抑えられることがあります。
円ベースは実際の支払額そのものではない
円ベースは、日本企業1社1社が実際に支払った金額を集計したものではありません。
日本銀行は、銀行が公表する月中平均の為替レートを使って、外貨建て価格を円に換算しています。
正式には「対顧客電信直物相場の仲値」と呼ばれるレートです。
そのため、企業が為替予約を利用していたり、独自の社内レートを使っていたりする場合、円ベース指数の動きと実際の支払額が一致しないことがあります。
円ベースは、同じ条件で円換算した場合に、輸入価格がどの程度変化したかを見る指数と理解するのが適切です。
ドル円の変動率と完全には一致しない
日本の輸入取引は、すべてが米ドル建てではありません。
ユーロなどほかの通貨で契約される商品もあれば、円建てで契約される取引もあります。また、原油や食料品、機械など、品目によって指数全体に占める割合も異なります。
そのため、円ベースと契約通貨ベースの差が、そのままドル円相場の変動率と同じになるわけではありません。
3.2026年6月の統計からわかる円安の影響

日本銀行が2026年7月10日に発表した2026年6月の輸入物価指数は、次の結果でした。
| 2026年6月の輸入物価指数 | 前月比 | 前年同月比 |
|---|---|---|
| 円ベース | +1.3% | +29.7% |
| 契約通貨ベース | +0.1% | +17.8% |
契約通貨ベースは前月から0.1%の上昇にとどまりましたが、円ベースは1.3%上昇しました。
同じ月のドル円相場は、前月比で1.5%の円安でした。
この結果から、2026年6月は、為替換算前の取引価格の変化だけでなく、円安も円換算した輸入価格を押し上げる方向に働いたことが読み取れます。
ただし、「輸入物価が上がったから、海外の商品がすべて値上がりした」というわけではありません。
品目別の契約通貨ベースを見ると、電気・電子機器、金属・同製品、飲食料品などは上昇しましたが、石油・石炭・天然ガスは前月比で1.0%下落しています。
輸入物価指数の総平均には、次のような要因が混在しています。
- 海外での商品価格の上昇や下落
- 円安や円高による円換算額の変化
- 輸送費や保険料の変動
- 品目ごとの値動き
- 取引で使用される通貨の違い
円ベースを見ると、円換算した輸入価格が上がったか下がったかがわかります。
一方、その背景に為替換算前の価格変化があるのか、為替変動の影響が大きいのかを考えるには、契約通貨ベースと並べて確認する必要があります。

4.輸入価格の上昇がすぐ店頭価格に反映されない理由
輸入物価の上昇は、国内企業の原材料費や仕入れ費用を押し上げる要因になります。
しかし、輸入物価が上がっても、すぐにスーパーの商品や電気製品が同じ割合で値上げされるわけではありません。
輸入価格の変化が店頭価格へ届くまでには、いくつかの段階があるからです。

以前に仕入れた在庫が残っている
企業が円高だった時期や、海外価格が安かった時期に仕入れた在庫を持っていれば、その在庫を販売している間は、新しい輸入価格の影響が表れにくくなります。
在庫が入れ替わるにつれて、仕入れ価格の上昇が国内の販売価格へ反映されやすくなります。
為替予約を利用している
輸入企業のなかには、将来の外貨購入レートをあらかじめ決める「為替予約」を利用している会社があります。
為替予約をしていれば、市場で円安が進んでも、予約した範囲については支払額がすぐに増えるわけではありません。
ただし、予約期間が終わり、円安の水準で新たな取引を始めれば、その後のコストは上昇します。
企業が利益を減らして値上げを抑える
仕入れ価格が上がっても、企業がすぐに販売価格へ転嫁できるとは限りません。
競合他社との価格競争や、消費者の買い控えを避けるため、企業が利益を減らしてコスト上昇を吸収する場合があります。
しかし、原材料費だけでなく、人件費や物流費も上がれば、企業だけで負担し続けることは難しくなります。
その結果、商品の値上げを選ぶ企業が増えることがあります。
店頭へ届くまでに複数の取引がある
原油や金属などの輸入価格が上昇した場合、その影響は一度に消費者へ届くわけではありません。
たとえば、原油価格の上昇は、石油製品、化学製品、プラスチック製品などの価格へ順番に広がり、複数の企業間取引を経て、最終的な商品価格へ反映されます。
日本銀行の田村直樹審議委員は、2026年6月の講演で2022年の動きを振り返り、輸入物価上昇のピークから約半年後に国内企業物価が、約1年後に消費者物価(生鮮食品・エネルギーを除く)がピークをつけたと説明しています。
これは2022年の事例であり、毎回同じ時間差になるわけではありません。
それでも、輸入価格の変化が、水際価格、企業間価格、店頭価格へと段階的に広がることは押さえておきたいポイントです。

5.輸入物価指数はどう読めばよい?
輸入物価指数を見るときは、円ベースと契約通貨ベースを組み合わせると、価格が動いた背景を理解しやすくなります。

両方とも上昇している場合
為替換算前の取引価格が上がり、円換算した輸入価格も上昇していると考えられます。
円安も同時に進めば、価格上昇と円安が重なり、国内企業のコストに強い上昇圧力がかかります。
契約通貨ベースは横ばい、円ベースは上昇している場合
為替換算前の価格は大きく変わっていないものの、円安によって円換算した輸入価格が上がっていると考えられます。
「円安だけでも輸入物価が上がる」代表的な形です。
契約通貨ベースは下落、円ベースは上昇している場合
為替換算前の取引価格が下がっていても、それ以上に円安が進めば、円換算後の輸入価格は上昇します。
円ベースだけを見ると、海外で取引される価格も上がったように感じるかもしれません。しかし、契約通貨ベースと比べれば、主な押し上げ要因が為替にあると読み取れます。
契約通貨ベースは上昇、円ベースは横ばいの場合
為替換算前の取引価格は上がっているものの、円高がその影響を打ち消していると考えられます。
海外との取引価格が上がっていても、円換算後の価格はそれほど上がっていない場合があります。
両方とも下落している場合
為替換算前の取引価格が下がっているか、円高によって円換算価格が下がっている、または両方が重なっていると考えられます。
もっとも、輸入物価が下がったからといって、すでに値上げされた食品や日用品の価格がすぐ元に戻るとは限りません。
企業には、人件費、物流費、家賃など、輸入物価とは別のコストもあります。一度値上げした商品を値下げするかどうかは、需要や競争環境にも左右されます。
輸入物価指数は、将来の消費者物価をそのまま示す予言ではありません。
海外から入ってくる価格上昇の圧力と、為替変動の影響を分けて考えるための統計として活用するのが適切です。
まとめ
輸入物価指数は、海外から日本へ入ってくる商品の水際段階の価格を示す統計です。
契約通貨ベースは、ドルやユーロなど、実際に契約した通貨のまま価格変動を測ります。
円ベースは、外貨建ての価格を円に換算するため、為替換算前の価格だけでなく、円安や円高の影響も受けます。
海外で商品の価格が変わっていなくても、円安が進めば、円換算した輸入価格は上昇します。
2026年6月の輸入物価指数でも、契約通貨ベースの前月比が0.1%の上昇だったのに対し、円ベースは1.3%上昇しました。
ただし、輸入価格の上昇が、同じ時期、同じ割合で店頭価格へ反映されるわけではありません。
在庫、為替予約、企業の価格転嫁、流通段階などによって、消費者が影響を感じるまでには時間差があります。
物価ニュースを見るときは、円ベースで円換算した輸入価格の動きを確認し、契約通貨ベースで為替換算前の価格の動きを確認すると、円安と物価の関係をより正確に理解できます。

輸入物価指数に関するQ&A
Q1. 円安になれば、輸入物価は必ず上がりますか?
A. 必ず上がるわけではありません。
為替換算前の取引価格が大幅に下落すれば、円安による押し上げ分を打ち消すことがあります。
また、円建てで契約している取引もあるため、円安の影響は品目や契約条件によって異なります。
Q2. 円ベースと契約通貨ベースの差は、すべて為替の影響ですか?
A. 両者の差には主に為替変動が表れますが、上昇率を単純に差し引けば、正確な為替の影響がわかるわけではありません。
輸入取引では、米ドル、ユーロ、円など複数の通貨が使われています。品目ごとに指数全体へ与える影響の大きさも異なるため、円ベースの上昇率とドル円相場の変動率は完全には一致しません。
Q3. 輸入物価が下がれば、食品やガソリンもすぐ安くなりますか?
A. すぐに安くなるとは限りません。
以前に仕入れた在庫、為替予約、国内の輸送費や人件費、税金、企業の価格設定などがあるため、輸入物価の変化が店頭価格へ反映されるまでには時間がかかります。
すでに値上げされた商品が値下げされるかどうかは、需要や企業間の競争にも左右されます。
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